花粉風雨 柳元佑太
大江健三郞、三月三日に死去せりと聞く 四句
花粉症酷き一と日や大江死す
獨學者現(うつつ)を花粉風雨(くわふんあらし)とす
稀に背筋伸ばせり春風のサルトル
伊豆も又た春の風雨か書齋閑(くわん)
大江に〈そして歸ってゆかなければならぬ/そこからやって來た暗い谷へと〉(『新しい人よ目覺めよ』)といふ句あり、澁谷も谷と思へば 三句
梅の夜の谷底暗し澁谷驛
吾が鄕は雪解盆地ぞ不得歸(かへらざる)
都市かなし何時まで春の麵麭祭
於 代々木公園 三句
太陽(ひ)は無垢を下界に給ふ大江の忌
百千鳥都市の夜空は弛緩せり
植物に自慰なきあはれ春の散歩(かち)