白扇のゆゑの翳りを広げたり 上田五千石

所収:『琥珀』角川書店 1992

 述べるところはシンプルで、扇の白い紙の折り目(という表現は適切だろうか?)の山と谷のなす影に着目している。薄い翳りに着目した後に「広げたり」と扇全体をイメージさせる語で1句を締めることで、扇の白さやそこから連想される涼しさが引き立つ1句。
 上田五千石は「眼前直覚」という理論を唱えた。この思想の初期では、外を歩き目の前のものを書くことを主眼においていたが後に、心を空にして自身も一体化するかのように物事を見ることが大事だというように変わった。「これ以上澄みなば水の傷つかむ」などはまさに自身の感覚が反映された1句であろう。
 掲句は、「眼前直覚」の思想が成熟した後の句でありながら、「ゆゑ」など直接的な語を用いて眼前のものをただ詠む初期に近い句風と言える。

参考:『上田五千五句私論』松尾隆信著 東京四季出版 2017

記:吉川

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