動物 丸田洋渡
ひととおり鮫ねむらせて雪の夜
鮟鱇や炬燵のなかに足のゆび
くすり指ほどの涙を兎から
文字はまだ手紙の上に鶴の恋
失神を思いのままに白鳥戯
砂ふる宿ひとり泳いでくる鮃
狐の婚みにいくお米だけ持って
羚羊が時を見ている時もまた
林まで行く悲の熊は喜の熊と
化けにくい朴の一枚狸の旅
大袈裟に海をつかって蛸の夢
蛤や美しい数列の桁
花に乗る手が蜂のとき蟻のとき
うぐいすの雲雀方言大切に
田螺には読める水かも魔法瓶
みずうみの藻の流行を燕かな
しばらくは蛙中心葉も雨も
かたつむり孔雀を前にして歌う
蛍なら水の研究室にいる
思春期をなまぬるい猫と暮らした
犀はいま宿題のなか唐辛子
濡れている闇を蜥蜴の暮らしぶり
かまきりは喪の叢を伐るところ
望郷は糸張りながら絡新婦
吸いこんで月は猪に泥色
天鵞絨に天という文字豹の昼
鉛筆は鷺に持たせて雨の丘
○
鯉とともに鮎を弔う川を流れ
跋文に鳥を書くこと鳥に言う
ぼたん雪あらゆる物を動かして