unlove 丸田洋渡
塩胡椒 任意の季語に少しの嘘
風花や濡れ歳時記を立てて干す
次の季節が窓を叩いて生姜焼き
○
首入れてあやうく不可視春の麒麟
雪解けの回転寿司に塩鰹
おおよそが粒から液へいくら丼
白魚や変な道から街に出る
かざぐるま街は佳境を疾うに過ぎ
○
解題に十月十日はかかる
万華鏡で生まれた。
思い出の教室の重心を取る
カーテンは/彫刻の/紅潮した/風
幻の増殖に伴う出火
百年前に思いを馳せる百年後
戦争が思春期に入った。
○
まず服に季語が馴染んで藍浴衣
昼寝覚友だちの句を諳んじる
ロボットにバグの全身転移かな
からくりが露わ理科室半身の陽
川に鷺ここも来年には更地
ともすれば死のねむけ梅花藻の花
花描ける象の画力や竹の春
烏賊は踊る月の遅速に則って
○
汽水湖の観察につぎこんでいる
草上の会話は湯気のように凧
雲が降る空 蜜柑入りみかんジュース
雪原に電気走ってそれっきり
しゃぶしゃぶと迷った挙句 の すき焼き
うに軍艦にうにの砲塔
湯豆腐や仮病つかってすぐ夜に
夢で会う子どもたちにも良い名前
間氷期お伽噺にお菓子の家
チェロ奏者チェロと呼ばれて虹は七色
雨傘に合う雨がないふきのとう
妖精に光は重荷ヒヤシンス
水晶体うすく曲がって鳥が飛ぶ
眼球に老化と朽化ネオンテトラ
エアコンのときめきで加速する部屋
100㎞/hの私たちはハザードで話した
夜の脳内に豆電球が点く
湾曲のヴァイオリンから水の音
洗濯機人違いにもほどがある
泥はもう水の虜にカンパニュラ
水汲んできて迂闊にも春の中
定型が割れて金継ぎその繰り返し
火にも箍あると見えたがこの始末
古きよき煉瓦伝いに屋根の上
○
そして詩に解硬のとき白木蓮
砂の句の金字塔ならそこかしこ
川には良い思い出ばかり秋のUFO