亡羊 丸田洋渡
ここに、十七枚の絨毯がある。
○
獅子奮迅電車を狂わせる電気
雷は埃へと書き変えられた
電子書籍に電子の栞ふかく差す
アルパカのプロトタイプを消しに行く
カーテンに届きつづける風のデータ
電気羊は甘い電気を夢みている
光っては翳って自動販売機
角砂糖崩壊その他もろもろも
○
多岐亡羊あらゆる夢に煙がのぼり
白鳥を侮る勿れ夢なら尚
なれるなら既に夜景になっている
春楡と送電塔が障り合う
牢にいて時もてあまし空を動かす
水ようかん雲粒がまた雲を見せ
天で止まらずエスカレーターの爽
神の池なら神が釣れるね七竃
天国に好奇心は要らない。
雲海に置き去りの卵がひとつ。
○
哲学が鳥呼んできて杉の舟
ながれる月日澄んだ眼の彼の猟奇
一頁目の見取図や金盞花
毒と麵麭 寝そべって本よんでいる
半神の脳くたびれて黄いろい風
水の建築すると眺めている方へ
手術刀すべらせる硝子のこころ
律動的・魔的・心的・甘美的
文机がゆっくりと雪田になる
霧にかげ冬の巨人は目隠しして
○
晴れている宝石通り過剰眩惑
ルビー・サファイア・翻訳家・エメラルド
電飾の麒麟麒 真暗闇の麟
消えるより消す方が楽奇術とは
〈火の薔薇〉を〈帽子と鳩〉に差し替える
湯のように湯が見えてきて露天風呂
牡丹なら椿で倒すカードゲームは奥が深い。
眼のみならず躰を凝らして見えてくる舞
草原は時間を鹿で解決した。
明後日が一昨日になる棒高跳び
時のかがやき惜しむらくは名優の死去
○
亡羊や雪はいつもどおり冷えて
亡びる都市みどりの安楽椅子に腰掛け
蜂の発光死の寸前は蜂以外も
雪の城スノードームの中で壊れろ
火まみれのチェロ抱き抱え綿の熊
雹のbeat霰のrhyme椿の国
月呼びがちの風変わりな笛吹きと遠出
○
翌る日も雪の箝口下の広野
いない羊に魘されている。
鈴を揺らせば象はまどろみ電気が通る
*麺麭(パン)、翌る(あく-る)、箝口(かんこう)、魘されて(うな-されて)、鈴(ベル)